ビジネスマッチングコラム vol.58

飛耳長目
開くドア

経営者保証とM&Aの関係

Twitterシェア Facebookシェア LINEシェア Mailシェア

経営者保証とは※1

大半の中小企業が金融機関から融資を受ける際、経営者個人が会社の借入に対して連帯保証人となるケースが多く見られます。これは「経営者保証」と呼ばれ、会社が倒産したり、融資の返済が困難になったりした場合に、経営者が個人的に債務を返済する義務を負う制度です。金融機関と経営者個人の間で交わされる法的な契約に基づいています。
中小企業の多くは、法人と経営者個人の資産が明確に分離されておらず、金融機関は返済リスクを軽減するために経営者保証を求める傾向があります。また、保証人だけでなく個人所有の資産を担保として差し入れを求める場合もあります。
ところが、この保証は経営者にとっては大きな心理的・経済的負担となります。事業が失敗すれば、個人資産を失う可能性があり、積極的な投資や大胆な事業展開をためらう要因にもなり得るからです。

M&Aによる個人保証解除の可能性

中小企業の経営者にとって、金融機関からの融資に伴う個人保証は長年にわたり重い負担となってきました。近年では、経営者の事業承継でリタイアを見据えたM&Aが、この保証から解放される手段として注目を集めています。
例えば株式譲渡型のM&Aでは、会社の経営権とともに債務も買い手に引き継がれるため、個人保証が解除される可能性が高まります。ただし、保証解除は自動的に行われるものではなく、売り手と買い手が協力しながら金融機関との丁寧な交渉が不可欠です。
そのため、買い手企業の信用力、譲渡契約における保証解除の明記、そして銀行への事前相談が成功の鍵となります。最近では、中小M&Aガイドラインの改訂により、保証解除に向けた実務対応も徐々に整備されつつあります。

経営者保証解除に向けた実務対応※2、3

2024年8月に改訂された「中小M&Aガイドライン(第3版)」では、譲渡企業の経営者保証解除に向けた実務対応が明確化されました。これにより、保証解除を前提としたM&Aの進め方が、より現実的な選択肢となりつつあります。以下では、譲渡側・譲受側それぞれの視点から、保証解除に向けたポイントを整理します。

① 譲渡側の経営者保証の解除に向けた取り組み
譲渡側がM&Aの前に保証解除を希望する場合、以下のような信用力・ガバナンスの強化が求められます。
• 法人と経営者の関係の明確な分離
 会社のお金を私的に使っていないか、役員報酬や貸付が適切かを確認
• 財務基盤の強化
 法人のみの資産や収益力で返済が可能であることや、安定した利益、十分な資産があること
• 経営の透明性確保(情報開示など)
 金融機関に対して正確な財務情報を提供し、決算書や事業計画の説明を行う必要
これらの準備を整えた上で、金融機関に保証解除を相談することが可能になります。つまり保証解除がM&Aの主目的である場合、譲渡側が主体的に準備を進めることが重要です。また、弁護士など専門家への相談も有効な手段のひとつです。

② 譲受側の信用力を活かした解除・移行
譲受側の信用力が高い場合、保証解除や譲受側への保証移行を前提にM&Aを進めることも可能です。ただし、以下の点に注意が必要なため、慎重な対応が求められます。
• 保証解除・移行は金融機関の判断によるため、確実ではない
• クロージング後に保証解除を相談するケースもあり、譲受側の協力が不可欠

③ 保証解除・移行を確実に進めるための対応策
 譲渡側が保証解除を確実に実現したい場合、以下の対応が考えられます。
• 専門家・支援機関への相談
 支援を受けているアドバイザーの相談に加えて、弁護士などに相談し、金融機関との調整を進める
• 金融機関への事前相談
 秘密保持契約を締結した上で、譲受側とともに保証解除・移行について事前に相談する
• 最終契約での明確な位置づけ
 保証解除・移行を譲受側の義務として契約に明記し、クロージング条件として設定する。解除が実現しない場合の補
 償条項なども盛り込む
• 債務の返済・借り換えによる対応
 譲受側が債務を返済し、別途借り換えを行うことで保証解除を実現する方法もある
これまで、中小企業のM&Aでは旧経営者が保証責任を負い続けるケースも多く、事業承継の障壁となっていました。今回のガイドライン改訂では、金融機関との事前調整や契約書への保証解除条項の明記が推奨され、支援機関や士業との連携による円滑な手続きも重要視されています。したがって、中小企業の経営者が安心して事業を譲渡できる環境整備が進みつつあります。

保証解除を目的としたM&Aにおけるリスクと注意点※4

制度整備が進む一方で、保証解除を目的としたM&Aには、依然として注意すべきリスクが存在します。典型的なトラブルのひとつが、株式譲渡後も保証が解除されず、さらには倒産に至るケースです。
こうしたリスクを避けるためには、契約書に保証解除の義務を明確に記載するだけでなく、解除が完了するまで譲渡代金の一部を留保するなど、実効性のある措置を講じることが重要です。

専門家の協力

M&Aによる経営者保証の解除は、法的・金融的な知識が求められる複雑なプロセスです。譲渡契約の内容や金融機関との交渉、保証解除のタイミングなど、慎重な対応が不可欠になります。
こうした場面で頼りになるのが、弁護士や公認会計士、あるいは税理士といった専門家です。彼らは、契約書への保証解除条項の明記や、金融機関との調整を的確にサポートしてくれます。さらに、M&Aアドバイザーの存在も欠かせません。アドバイザーは、譲渡側と譲受側の間に立ち、交渉の調整や契約内容の整理、金融機関との事前相談の段取りなどを担います。特に保証解除に関する条項の明記や、解除が実現しない場合の補償条項に関する取り決めなど、実務面での支援は不可欠です。弁護士や税理士は法務・税務の観点から、アドバイザーは全体の進行管理と利害調整の観点から、それぞれの専門性を活かして連携することで、リスクを最小限に抑えたスムーズなM&Aが可能になります。つまり保証解除を確実に進めるためには、早期から専門家と連携し、戦略的に準備を進めることが成功の鍵となります。

最後に

経営者保証の解除は、単なる法的手続きではなく、経営者のその後の人生に深く関わる重要なテーマです。M&Aでの事業承継は、その保証から解放される有効な選択肢のひとつですが、解除には慎重な準備と専門家の支援が不可欠です。中小M&Aガイドラインの改訂により、実務対応の道筋は整いつつありますが、リスクを見落とせば大きな代償を伴う可能性もあります。だからこそ、早期の相談と戦略的な対応が何より重要です。経営者がハッピーリタイアをして次のステージへ進むために、保証解除を見据えたM&Aの活用は、今後ますます重要な選択肢となります。
事業承継をご検討中の方は、どうぞお気軽に<support@gift-map.jp>までご相談ください。

出典
※1 中小企業庁「経営者保証」
https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/keieihosyou/index.html
※2 一般社団法人 全国銀行協会「経営者保証に関するガイドライン」
https://www.zenginkyo.or.jp/adr/sme/guideline/
※3 中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」
https://www.meti.go.jp/press/2024/08/20240830002/20240830002.html
※4 中小企業庁「M&Aに関するトラブルにご注意ください」
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2024/240830_01.html

2026.3.11掲載

Twitterシェア Facebookシェア LINEシェア Mailシェア

ページトップへ