- ホーム
- ビジネスマッチングコラム 一覧
- ビジネスマッチングコラム vol.57
ビジネスマッチングコラム vol.57
PMIは会社の未来をつくる“経営”そのもの
昨今、中小企業のM&Aの実施数は年々増加傾向にあります。後継者不在による事業承継や事業の選択と集中、成長戦略の一環として、中小企業の間でもM&Aが有効な手段の一つとして選ばれるようになってきました。ところが、M&A成立が目的化してしまうケースも散見されます。M&Aはゴールではなく、企業価値を高めるための出発点です。したがって統合プロセスであるPMI(Post Merger Integration)が、M&Aの成果を左右する鍵となります。統合が不十分であれば、従業員の離職や業務の混乱、顧客離れなどが起こり、期待された相乗効果は実現しません。だからこそ、PMIは“これから”を見据える経営そのものなのです。
PMIとは何か
PMIは、M&Aによって一つのグループになった企業同志が、実際に機能統合していくための設計と実行のプロセスです。従来はM&A成立後に始まるものとされていましたが、最近ではM&Aの検討段階から統合を見据えた準備が重要視されています。財務や法務のデューデリジェンスではない、企業文化や人間関係といった“目に見えない部分”への洞察が、統合の成否を分ける要素となります。
PMIでは、経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報、時間)の統合やブランド戦略の再構築など、企業の根幹に関わる要素を扱います。こうした設計をM&Aの実行前から丁寧に進めることで、統合による混乱を最小限に抑え、持続的な成長へとつなげることができます。統合方針を早期に共有することで、不安の軽減と意思決定のスピード向上にもつながります。
PMIの失敗
PMIがうまく機能しなければ、統合後の会社は深刻な混乱に陥る可能性があります。失敗の主な原因は、価値観の違い、企業文化の違い、統合方針の不明確さ、従業員への説明不足、そして初期対応の遅れです。もちろん違う企業同士が一緒になるわけですから単純な話ではありませんが、失敗する要因をはらんでいないか事前に把握しておくことも重要です。
たとえば、慎重な意思決定を好む売手会社とスピード重視の買手会社が統合すれば、業務の進め方や価値観の衝突が起こりやすくなります。ほかにも、現場の技術力や経験を重視する職人気質の売手会社と、成果指標に基づくマネジメントを重視する買手会社が統合すると、考え方や評価基準にズレが生じ、組織内に不満が蓄積されやすくなります。こうした文化的摩擦は表面化しにくいですが、従業員の不満や離職につながるリスクになります。
次に、統合方針が明確に定まっていないことや、曖昧であることも問題です。買手会社が”現場に任せる”として明確な方針を示さない場合、現場は混乱し、意思決定が遅れ、業務効率が低下します。というのも中小企業においては、経営者のリーダーシップが統合の成否を左右することが多いため、明確な方針がないまま進めるのは、統合効果の低下につながります。
さらに、従業員への説明不足も要因のひとつです。M&Aにおいて従業員が不安を抱くポイントは、雇用形態や役割がどう変わるのかといった点です。PMIは”人と人とが向き合う統合”でもあるため、従業員が安心して変化を受け入れ、率直に意見を交わせる環境、すなわち心理的安全性の確保が欠かせません。
PMIは、M&A成立からの初期フェーズ(3ヵ月程)で何をどう進めるかが重要です。この期間に統合の土台を築く具体的なアクションを集中して行わなければ、統合の目的がぼやけてしまいます。つまりPMIの失敗は、業務の混乱にとどまらず、企業価値の毀損やブランドイメージの低下、さらには事業の継続性に影響を及ぼします。
成功するPMIのポイント
PMIを成功に導くには、以下のようないくつかの共通した特徴があります。
・統合方針を明確にし、目的を早期に共有している
・従業員との丁寧な対話を重ね、心理的安全性を確保している
・現場の声を尊重し、実行力のあるチーム体制を構築している
・相手企業の文化や強みを柔軟に取り入れている
・初期段階で具体的なアクションを集中して行っている
こうした取り組みは、従業員との信頼関係を構築し、統合による混乱を防ぐだけでなく、企業の成長を加速させる土台となります。つまり、統合を単なる手続きではなく“人と組織の未来を設計する経営”として捉えているということです。
PMIの成功事例
以下に紹介する事例は、こうした視点と行動によってPMIを成功させたケースです。
統合方針の“見える化”で役割を明確に(売手:飲食業×買手:建設業)
割烹料理を営む売手会社と、建設業を主軸に多角的に事業展開している買手会社とのM&A。両社長の人間的相性が良く、統合後の条件や今後のビジョンも一致していたことから、スムーズに合意に至りました。
買手社長はM&A前から、売手会社の経営資源をどう活かすかを具体的に計画し、従業員一人ひとりの強みや働き方についても丁寧にヒアリングを行っていました。たとえば厨房スタッフが得意とする料理の種類や調理スタイル、接客担当者が普段どのような言葉遣いや対応でお客さまと接しているかなど、現場で培われた個性や強みを細かくヒアリングし、それぞれの持ち味を活かす方針を明確にしていました。こうした姿勢は、従業員に対する理解と尊重の表れであり、統合後の安心感や信頼関係の構築にもつながっています。M&A成立後は、従業員への説明を時間をかけて丁寧に行い、日常的な何気ない会話も積極的に交わしました。昼休みに一緒に食事をしたり、現場に顔を出して声をかけたりしてコミュニケーションを重ねることで、従業員の安心感と信頼を育んでいきました。
仕入先への説明も迅速に行われ、従来の関係性を維持しました。これらの対応により、店の運営も従業員との関係も混乱なく順調にスタートし、統合前よりも店に活気が出ています。
“統合×進化”のPMI設計図(売手:プラスチック金型×買手:プレス金型)
プレス金型を手がける買手会社は、異素材であるプラスチック金型を製造する売手会社を譲り受けました。M&A前から、統合後の事業運営について綿密な話し合いを重ねており、「M&A後にいつ、どこで、誰が、何を、どのように」を話し合い、どう決めていくかというプロセスまで細かく設計されていました。
たとえば統合後は、従業員への情報開示を迅速に行い、複数のチームを編成しました。営業チームでは、両社の営業担当者が商品知識を相互に習得するための勉強会を実施し、顧客対応力の向上を図りました。開発チームでは、新しい商材の導入に向けて、両社の技術者が協力して情報収集や試作を行い、現場レベルでの実践的な連携が進みました。また、財務や金融は経営陣同志での連携を行ない、経営の合理化を図りました。
PMIの会議は毎月1度、1年間継続され、グループ全体の構造を常に可視化・管理することで、当初の計画を超えるシナジーが創出されています。
PMIの立て直し
どんなに入念なPMIを計画しても、すべてが想定通りに進むとは限りません。たとえば、予期せぬ事態が起こり、売手会社の主力顧客が統合後に離脱したり、業務フローの変更による混乱で現場から不満が出たり、サービス品質が低下することもあります。ところがそこで終わりではありません。重要なのは、何が噛み合わなかったのかを冷静に見極めることです。営業戦略の再設計や組織体制を見直したり、従業員とのコミュニケーションを重ねたりすることで、小さな行き違いをひとつずつほどいて、少しずつ信頼を積み直していくのです。
最後に
最近は中小企業庁のM&AガイドラインでもPMIの重要性がうたわれ、2022年には「中小PMIガイドライン」が策定されています。
1つとして同じM&Aがないように、PMIもまた同じものはありません。統合の進め方や期間に参考になる指針はありますが、自社の状況に応じて進めることが重要です。統合の深さや範囲によっては、短い期間で充分な場合もありますし、何年にもわたり取り組みが必要な場合もあります。
M&Aによって得られるのは、事業の拡大だけではありません。新たな人材、技術、顧客基盤、ノウハウ、ブランド力など、これまで自社にはなかった経営資源がくわわることで、企業の可能性は大きく広がります。
つまりPMIは、こうした新しい資源をどう活かし、どう融合させるかを設計するプロセスです。
中小企業にとってPMIはリスクであると同時に、大きなチャンスでもあります。異なる組織が融合することで、新たな視点やノウハウが生まれ、これまでにない可能性が開かれるのです。
M&Aをご検討されている方は、まずは<support@gift-map.jp>宛に相談してみませんか。
2025.12.26掲載

