ビジネスマッチングコラム vol.56

飛耳長目
飛騨高山・古い町並

会社は譲らず事業のみを譲る

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事業の譲渡とは


法人が事業の全部または一部を他の法人に譲渡することを事業譲渡と言います。譲渡の対象には、店舗や工場などの有形資産だけでなく、従業員の雇用契約、取引先との関係、ブランド、営業ノウハウ、知的財産権などの無形資産も含まれます。単なる資産売却とは異なり、事業そのものの継続性や価値を維持しながら、他社に引き継ぐ点が特徴です。営業権の譲渡とも考えられています。したがって2006年までは営業譲渡と言われていましたが会社法施行により事業譲渡と呼称が変わりました。
どちらにしても事業の選択と集中を進めたい企業や、成長分野への経営資源の再配分を図りたい企業にとって、戦略的に非常に有効な手法となります。また、後継者問題や財務改善など、経営上の課題に対する解決策としても活用されます。

事業譲渡と株式譲渡との違い

簡潔に言えば、事業譲渡とは会社を譲らずに残し、その会社の営む特定事業を切り離して売却する方法です。一方、株式譲渡は対象会社の株主が保有する株式を譲渡することで会社全体の所有者が変わる方法です。 どちらを選ぶかは、譲渡の目的や引き継ぎたい事業の範囲によって異なります。また株式会社ではない社団法人や合同会社なども事業譲渡のスキームを使うことが多いです。

事業譲渡と株式譲渡の特徴

事業譲渡 株式譲渡
対象範囲 会社が営む特定の事業 株主が保有する株式
従業員の雇用について 従業員ごとに同意取得が必要 雇用契約は会社に残るため、同意は不要
取引の主体 譲渡側・譲受側ともに法人が主体 株主(個人または法人)
手続きの複雑さ 契約・資産・人員の個別移転が必要で
手続きが複雑
株式の名義変更のみで比較的簡易
譲渡対象 事業の資産・契約・人員など 株式(会社の所有権)
許認可や契約等の扱い 再締結・再取得が必要 原則として既存の契約・許認可が維持される

つまり事業譲渡は「会社の中身を一部売る」というイメージ、株式譲渡は「会社という“箱”のオーナーが変わる」というイメージと捉えると、より理解が深まります。ただし、株式譲渡は過半数以上の株式が譲渡された場合に限ります。

なぜ事業譲渡を選ぶのか

売り手側
○事業の再構築・効率化
複数の事業を展開している企業では、収益性や将来性の低い事業を手放すことで、経営資源をより有望な分野に集中させることができます。したがって、生産性や収益性の向上が期待され、企業全体の競争力強化につながります。
○後継者問題
中小企業では、経営者の高齢化や後継者不在が深刻な課題となっています。事業譲渡は、事業の継続と従業員の雇用を守る手段としても有効です。
○資金調達
譲渡によって得た資金は、成長分野への投資、新規事業の立ち上げ、借入金の返済など、企業の財務体質改善に活用できます。

買い手側
○新規事業への迅速な参入
ゼロから事業を立ち上げるよりも、既存の事業基盤やノウハウを活用することで、スピーディかつ効率的に新分野へ進出できます。
○事業の拡大と相乗効果の創出
譲渡された事業の顧客基盤や技術、人材を活かすことで、既存事業とのシナジーが生まれ、売上や市場シェアの拡大が期待されます。
○人材の獲得
特定分野に精通した人材やチームを一括で獲得できるため、即戦力として活用でき、組織力の強化にもつながります。人手不足の昨今では非常にニーズが高いです。

事業譲渡のメリット・デメリット

売り手側のメリット
・不採算事業の切り離し
・会社の存続と経営権の維持
・従業員の資産を残せる

売り手側のデメリット
・契約や権利の承継が煩雑
・株式譲渡に比べて税負担が重くなるケースも
・20年間競業避止の制限がかかる

買い手側のメリット
・必要な事業範囲だけを選定できる
・既存の負債や債務を引き継ぐ必要がない
・ブランドや知的財産の取得が可能

買い手側のデメリット
・消費税の支払い
・従業員との再契約が必要
・許認可の再取得が必要

事業譲渡を成功させる方法

①事前準備
まずは、なぜ事業を譲渡するのかという目的や背景を整理することが重要です。譲渡対象となる事業の収益性、資産状況、契約関係などを棚卸しし、譲渡の方向性を定めます。
②譲渡先候補の選定
事業譲渡の方向性が定まったら、次は譲渡先候補の選定に移ります。譲渡先の選定は、事業の将来性やシナジーを見据えた重要なステップです。M&A仲介会社や金融機関、業界ネットワークなどの外部リソースを活用し、信頼性が高く、譲渡後の事業運営に適した候補を探しましょう。
③秘密保持契約(NDA)の締結と条件交渉
候補先が決まって具体的な交渉に入る前に、機密情報の保護を目的としたNDAを締結することが不可欠です。この契約により、譲渡対象事業に関する財務情報や顧客情報、契約内容などの重要な情報が外部に漏れることを防ぎます。NDA締結後には、譲渡候補に対して事業の詳細情報を開示し、より具体的な検討や交渉を進めます。交渉内容は対象事業の範囲、価格、時期、引継ぎなどについてなどです。
④基本合意書の作成
譲渡候補との協議が進み、譲渡の主要条件がある程度固まった段階で、基本合意書を作成します。この文書には、譲渡対象の範囲、譲渡価格の目安、スケジュール、従業員の処遇など、重要な項目が盛り込まれます。基本合意書は法的拘束力が限定的であるものの、今後の交渉の方向性を明確にし、双方の認識をすり合わせるための重要なステップとなります。
⑤デューデリジェンスの実施
基本合意の締結後、買い手側は譲渡対象事業に関する詳細な調査を実施します。調査項目は財務・法務・人事・契約・税務など多岐にわたり、事業に潜在するリスクの把握や事業価値の適正な評価を目的としています。売り手側は、必要な資料の準備や関係者への説明などを通じて、調査が円滑に進むよう協力することが求められます。このプロセスは、譲渡後のトラブルを未然に防ぐためにも非常に重要です。
⑥事業譲渡契約の締結
デューデリジェンスを経て、譲渡条件に最終的な合意が得られた段階で、事業譲渡契約を正式に締結します。この契約書には、譲渡対象の範囲、譲渡価格、支払条件、譲渡日、従業員の引継ぎ、競業避止義務など、譲渡に関する具体的かつ重要な事項が明記されます。契約内容は法的拘束力を持ち、譲渡後のトラブルを防ぐためにも、専門家の助言を受けながら慎重に作成・確認することが求められます。
⑦クロージング(譲渡完了)
すべての準備が整った段階で、契約に基づき事業譲渡が正式に実行されます。譲渡対象となる資産・契約・人材などが買い手側に移転され、譲渡価格の支払い、登記手続き、各種引継ぎ業務などが順次行われます。このクロージングをもって、事業譲渡プロセスは完了となり、譲渡後の新体制による事業運営がスタートします。

最後に

事業譲渡は単なる資産の売買ではなく、未来を見据えた戦略的な選択肢です。売り手・買い手双方にとって多くのメリットがある一方で、慎重な準備と適切な手続きが求められます。自社の状況や目的に応じて専門家にご相談ください。



事業譲渡やM&Aについてご質問等ございましたら、お気軽に<support@gift-map.jp>宛にご相談ください。

2025.11.28掲載

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