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ビジネスマッチングコラム vol.53


M&Aの成立に向けて売手と買手は、丁寧に時間をかけて交渉を行います。ところが、何かしらの理由により交渉途中でM&Aがディールブレイク(取引破綻)することもよくあります。
双方が候補先として選びマッチングしたとしても最終的なご成約につながる確率は、実はそれほど高くありません。マッチングからネゴシエーションが始まり、その過程でディールブレイクするのにも理由がありますので、いくつかご紹介いたします。
売手が原因のディールブレイク
○売手従業員の退職
中小企業のM&Aでは、M&A後もすべての従業員が雇用されることが一般的です。買手は人材不足の打開策として、従業員を増やすことを目的にM&Aをすることがあります。そのため、従業員の退職がディールブレイクにつながります。
特にキーパーソンの退職はブレイク要因になる可能性が高まります。キーパーソンへは買収前に面談し、事前に承諾を取得することがあります。キーパーソンの存在が売手会社の技術や売上に大きく影響している場合、キーパーソンの承諾を得ることがクロージング条件(M&Aの最終契約における条件)に含まれていることもあります。ほかにも、有資格者や技術者の退職も同様です。
従業員の退職は、技術力の低下や業績悪化につながります。従業員への情報開示は慎重さが求められますが、丁寧に不安や心配を解消するための説明を行うことが大切です。
○株主の不承諾
中小企業のM&Aにおいては一般的に、買手は売手会社の全株式の譲り受けを希望しています。売手社長1人がすべての株式を持っている場合は問題ありませんが、株式を複数名で所有している場合は、すべての株主から同意を得なければなりません。すべての株主から同意を得られなければ、リスクがあるという理由からブレイクする可能性が高いです。
所在不明の株主がいる場合も注意が必要です。所在不明株主が存在する場合に行う手続きは、通常は5年の期間が必要です。近年では、会社法の特例(経営承継円滑化法)で、要件を満たせば5年を1年に短縮する制度ができましたが、M&Aを検討し始めたら株主を事前に調べて、株式の集約などの対応を考えておくことが重要です。
○売手社長が非協力的
買収前に、買手はDD(デューデリジェンス:買収監査)を行います。DDでは、売手会社の経営状況や事業内容などの実態を調査します。DDを行うためには、売手が大量の資料を準備するなどの協力が必要になります。ここで売手が非協力的な態度である場合、買手に不信感を与えてしまい、ブレイクにつながることがあります。売手にとってはメリットがないように感じてしまうかもしれませんが、DDを行い買手が安心をすることは、M&Aの成約につながります。
○想定外のリスク発覚 簿外債務など
先に記載したように、買手はM&A前にDDを行います。DDで売手から今まで開示されていないネガティブな情報が見つかり、ブレイクすることもあります。
売手は、良い情報だけではなくネガティブな情報も事前開示することが大切です。売手社長が知らない内部事情があるかもしれませんので、M&Aを検討しはじめたら会社の内部事情をよく調べ、正確な情報を知ることが大切です。重要なのはDDで発覚するのではなく、DD前に売手自身から買手にネガティブな情報を直接伝えることで、誠実さが伝わります。
M&A後に簿外債務や想定外のリスクなど売手のネガティブな情報が発覚した場合、損害賠償責任を負う可能性があります。常に誠実に買手と向き合うことが大切です。
買手が原因のディールブレイク
○情報漏洩
M&Aは”秘密保持に始まり、秘密保持に終わる”といわれるほど、秘密保持が厳守です。社内でもトップシークレットで取り扱います。第三者への情報漏えいはあってはならないことです。情報の取り扱いには十分に気をつけなければなりません。
たとえば、買手社長の仲間同士の飲み会などで、検討しているM&Aについて話していたとします。具体的な会社名は伝えていませんが、業種や地域などを話してしまうと、売手企業の特定につながり、M&Aを検討している噂が広まりかねません。そうなると売手は、買手のことを信用できなくなり、M&Aがブレイクとなる要因となります。それだけではなく、売手企業が会社を売ろうとしているという噂から取引先にも影響を及ぼしたり、次の買手候補が見つからなくなる可能性もあります。その場合は漏えいさせた側に経済的、道徳的責任がともないます。
○トップ面談での態度が不誠実
売手と買手の立場は対等で「同じ立場」です。ところが、なかには売手に対して態度が横柄な買手もいます。
売手と買手が初めて直接会うトップ面談で、買手が「買ってやるのだ」とばかりに高圧的な態度で臨むと売手に不快な思いをさせてしまいます。初めての顔合わせで、お互いを尊重することを忘れ誠実さを忘れた姿勢で向き合うと相手から悪い印象を持たれ、ブレイクする要因となります。
○過度な値下げなどの条件変更
売手と買手がM&Aを前向きに進めていこうと意思表示することを基本合意といいます。基本合意を締結すると、買手が売手に対して独占交渉権を得ます。独占交渉権とは、基本合意を締結した買手のみが、売手と交渉できることです。独占交渉権を得たときには、売手の譲渡希望条件を買手が概ね受け入れている状態です。独占交渉権を得たあとに、根拠なく買手が売手に対して譲渡希望価格の大幅な値下げを求めてくるのはマナー違反です。たとえば、DDを行い減額となる原因が出てきて、適正な減額を求めるならば、売手は交渉に応じます。しかし減額交渉につながる原因がないにもかかわらず大幅な減額を交渉すると、売手は買手に不信感を持ち、ブレイクになる要因になります。条件変更の交渉には、合理的な理由が必要です。
「売手は1円でも高く売りたい。買手は1円でも安く買いたい」という心理があります。自分の利益だけを優先してしまうと、信用を失います。その他、基本合意事項を大きく変更させるなど、信用を低下させブレイクすることもあります。売るのは会社(事業)ですが、そこには売手の気持ちがあります。そのことを忘れてはいけません。
アドバイザーの役割
仲介会社やFA(ファイナンシャルアドバイザー)会社の存在も大切です。仲介会社選びはもちろん大切なことですが、担当になるアドバイザーを見極めることも重要です。本当にこのアドバイザーに任せてよいのかを考え、アドバイザーが信用できないと思ったときはアドバイザーを変えてもらう方がよいかもしれません。アドバイザーの取り仕切りいかんでブレイクの可能性が高まることもあります。
さいごに
ディールブレイクを防ぐために一番大切なことは、売手も買手も誠実な気持ちで対応することです。
M&Aでは、資金面や技術などさまざまなことを考慮しますが、中小企業のM&Aにおいて最後に肝となるのは、社長の誠実さです。社長の人柄が最終的なポイントとなります。
M&Aをご検討されている方は、まずは<support@gift-map.jp>宛に相談してみませんか。
2025.2.17掲載