ビジネスマッチングコラム vol.51

飛耳長目
天秤

含み損益を把握することで真の企業価値評価を

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資産の含み損益とは

含み損益とは、含み益と含み損をまとめた言葉です。保有資産を現金化した場合の時価と会計帳簿との差額をさします。含み益は、簿価よりも時価が上回っている分の差額のこと、含み損は、簿価よりも時価が下回っているときの差額のことです。評価益、評価損ともいいます。つまり含み損益は、現時点での評価。会計や税務上のルールにより簿価を財務諸表に記載しますが、これが実態とかい離していることがあるのです。


M&Aにおいての含み損益

M&Aにおいては、対象会社の企業価値を正しく評価するために、保有資産の時価を求めて含み損益を把握します。保有資産の評価は財務諸表に記載されていますが、簿価はその資産を取得したときの価格、そしてルール上の減価償却後の価格であり、その資産を実際に今、売買しようとする取引価格(時価)とは異なります。時価は公正な評価額で、市場で実際に取引されている価格です。売手にとっても買手にとっても、含み損益を把握することは、M&Aの話し合いでの交渉材料となります。
売手は、M&Aを検討しはじめたら保有資産の含み損益を把握しておくことが望ましいです。対象会社の譲渡希望価格を決めるときに、含み損益によって価格が変わる可能性があります。含み益が多くあれば、希望している譲渡価格よりも高い金額を設定することができるかもしれません。反対に、含み損が多くあれば買手から譲渡価格について指摘が入るかもしれません。含み損益を知っておくことで、買手との交渉の事前準備ができます。
買手が資産の含み損益を把握するのは、通常、対象会社のデューデリジェンス(買収監査)を行ったときです。デューデリジェンスでは、対象会社を財務・税務・法務・不動産などさまざまな観点から調査し、企業価値、将来の収益性、リスクの調査および分析を行います。保有資産についても調査を行い、現在の状況を正確に把握します。


資産の含み損益

会社の保有資産で含み損益が考えられる項目は、不動産、有価証券、在庫(棚卸資産)、仕掛品、売掛金、受取手形、リース資産、未収入金、貸付金、保険積立金、車輌などです。
・不動産(土地)
50年前に5,000万円で取得した土地が、都市開発が進み現在では1億円の価値(5,000万円の含み益)になっている、バブル期の地価高騰のときに3億円で取得した土地が現在は1億円(2億円の含み損)になっている、といったケースが考えられます。

・有価証券
株式や投資信託があれば市場の時価に置き換えて、含み損益を確認します。

・売掛金、受取手形、未収入金
取引先ごとにそれぞれの未収入金の残高と、入金期日からどのくらいの期間が経過しているかをリスト化し、回収目途が立たない不良債権がないかを調べます。回収が困難なものは減額します。その場合、通常は評価が0円となります。

・リース資産
リース取引を賃貸借取引として処理している場合は貸借対照表に計上しないため、リース資産に係るリース債務の把握が難しくなります。特に中小企業では賃貸借処理をされている場合が多いです。リース取引がある場合は、どれだけの含み損(債務)があるのかを確認します。

・貸付金
役員や従業員などに貸付けをしている場合は、使途や返済時期を確認し、貸付金が本当に返済される可能性があるのかを考慮します。回収が困難なものは減額します。

・保険積立金
解約返戻金額に置き換えます。

・車輌
税務上のルールにより減価償却された簿価よりも高く売れる場合があります。


売手と買手の条件交渉

対象会社の資産の含み損益については、売手と買手で見方が異なることがあります。たとえば、対象会社に簿価5億円分の在庫があるとします。売手は、在庫のすべてを売ることができると考えているので、在庫の時価は簿価と同じ5億円と主張します。しかし買い手は、在庫のすべてを売ることは難しいと考え、在庫の半分(2.5億円分)は価値のない不良在庫と主張します。買手から在庫の含み損を指摘されることがわかった場合、売手は含み損のリスクを鑑みて在庫を売却しキャッシュ化する方法があります。売手はキャッシュを増加することで会社の価値が高くなり、譲渡価格も高くできる可能性があります。
あるいは土地の価格についても互いの基準とする条件が食い違うことがあります。売手は近隣の土地の取引価格を参考にして時価としたいと主張するのに対し、買手は相続税路線価や固定資産税評価額を用いた土地の評価を時価としたいと主張することがあります。
このように、売手と買手の考え方、何をもとにして時価を求めるかにより、時価は異なってくるのです。

M&A交渉で互いの意見を主張し過ぎると

上記のように、売手と買手で意見が異なることはよくあることです。しかし、互いの意見をそのまま通すだけでは、友好的なM&Aは成立しません。
たとえば、売手の遊休資産に含み益が多くあり、売手は高額な時価を要求します。しかし買手にとってみれば、事業用としての資産ならば価値があると評価し高額な時価の要求を受け入れるかもしれませんが、事業に関係のない遊休資産には価値を見出すことができません。時価を求めても、買手がM&Aにおいてほしいものでなければ、価値があるとは評価されません。売手の要求が変わらない場合、買手はM&Aを断る可能性があります。
あるいは、買手が売手の機械設備が古いという理由で時価を低く評価しました。しかし、その機械設備は製品の製造において非常に重要な役割を果たす貴重な機械であり、売手にとっては、その機械を使用するからこそ他社よりも優れた品質の製品ができると考えています。また、同一機械を再取得すると考えた場合には、再調達原価を時価とする考え方もあります。売手は買手にその価値をわかってもらえなければ、M&Aを断る可能性があります。
互いの主張のかい離が大きいと、M&Aの交渉は決裂します。主張するばかりではなく、歩み寄りや妥協も必要なのです。


最後に

売手は“1円でも高く売りたい”、買手は“1円でも安く買いたい”と思うのが普通です。ですから、M&Aにおいては含み損益の論争が必ずといっていいほど起きると心得ておきましょう。
本来であれば互いが対象会社の資産の価値を知り、同じ情報量をもち、対等な立場でM&Aの話し合いを進めることが望ましいです。そのためには、専門家にも相談しながら対象会社の資産の価値について正確に把握し、情報の格差をなくすことが求められます。


M&Aを考え、資産の含み損益について気になる方は、お気軽に<support@gift-map.jp>宛に相談ください。


2024.10.23掲載

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