ビジネスマッチングコラム vol.42

飛耳長目
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アドバイザー達のダイアリーノート

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「新たな事業の柱として設立した介護施設」

「とてもじゃないが会社売却なんてできる経営状態ではない。あらゆるM&Aスキームを視野に入れて幅広く提案していかなければならないだろう」。今回の仲介を引き受ける際に、まず提案方法をあれこれ考えてみた。事業譲渡、会社分割、業務提携…。売手社長にとって、また今後の事業にとって最適な方法を見つけなければならない。

冬が訪れたころに社長と初めてお会いした。
父親から引き継いだ会社はもともと建築関係の仕事をしていたが、時代の流れにともない公共事業の縮小などに直面し、売上が減少。新たな柱として介護事業に参入し、2ヵ所の介護施設をつくった。1つは地元で設立したため地域の事情や特性がわかっており、住民との関係も築けていたので入居者数の伸びは順調だった。ところが、もう1つは他県に設立したため、条例の違いなど、地域事情が異なる。遠方のため人材育成や業務管理にもなかなか目が届かず、経営が厳しくなっていったようだ。介護事業はいずれご親族が引き継ぐ計画であったが、最近になって本人も社長も経営者になることへの不安や重圧などを理由に第三者承継の可能性に切り替えたのだ。今回仲介を引き受けたのは、会社売却ではなく他県の介護施設の一部譲渡である。
「だれかにこの事業を引き受けてもらえたら」と社長は願っている。

この施設は特に入居者募集に苦戦していた。コロナ前から赤字状態が続いていたが、コロナ禍により営業活動ができず施設の稼働率は半分程度になっていた。それによりさらに財務は悪化。現地は自然環境に恵まれて立地もよく、設備も新しい。いい方を変えれば業種の好転余地が大きく、買手のノウハウ次第で収益を上げられる事業である。

スキームはまず事業譲渡で買手候補を探したが、赤字額が大きいことがネックとなり、買手候補がネガティブに捉え上手くいかなかった。

さらに、コロナウイルス感染予防のため、商談が電話でしかできないこともあった。本音を対面で聞けないことは、アドバイザーにとってはもどかしい。それでも買手先を探すためにあらゆる手段を考え続けた。
それから事業磨きのため売手社長には、従業員の再教育を行ってもらった。コンサルタント会社と契約しているようだが、従業員とのコミュニケーションに問題があるように見えたからだ。買手が引き継いでから改善を行うのではなく、事前に従業員とのコミュニケーションの円滑化を図るため、また従業員だけで自走が可能になるように。それが最適な買手を見つけることにつながると考えた。

売手と買手候補にはどのスキームが最適になるかを考え提案し続けた。断られても何度も探す。売手社長は、買手候補から何度お断りを受けても決して諦めなかった。すぐに切り替えて買手候補先を求めた。多くの売手社長は、買手候補の1社目に断られると、心が折れて諦めてしまうことが多い。しかしこの売手社長は「仕方がない。その会社とは縁がなかったと思う。しっかりと受け止めてくれる買手に出会わせてほしい」と常に立ち向かう姿勢だ。私も仲介を引き受けたとき、覚悟を決めてサポートすると決心したのだ。アドバイザーとしても諦める訳にはいかない。

冬が終わり梅の花が咲くころ、有力な候補に出会えた。介護施設の企画運営などを行っているFC(フランチャイズ)本部企業だ。業務提携はスキームのひとつとして考えていたが、FC契約での提案は当社としても初めてだった。売手社長に話をすると「まずは1歩進めることだな」とまずまずの反応。
フランチャイザーから定期的にコンサルティングを受けることで業績の回復が見込める。FC本部としてもグループ拡大の足掛かりとなる点でシナジー効果が見込める。FC制度とはいえ、福祉施設を営む企業の集合体とフランチャイザーの社長は考えており、グループ間ではフラットな関係を築いていた。加盟店になっても、本部と対等な関係で情報交換を行い、ノウハウを知り入居者数を増やし収益を出せる可能性があると感じた。トップ面談ではフランチャイザーの社長が親身に売手社長の話に耳を傾けた。「うんうん、なるほど。そうですねぇ・・・」と。
売手社長もFCグループの考え方に賛同し、「事業再建後の方が事業を売却しやすい」と考え、そこから一気に業務提携契約を結ぶことになった。「(先方は)親身に相談に乗ってくださり、有益なアドバイスもくれる。当面はネットワークのシナジー効果で施設の運営効率向上を図り、将来の選択肢の幅を増やせたらと思っている」と笑顔をみせた。希望の光が少し見えたようだ。
調印後フランチャイザーの社長は「有料老人ホームの運営ノウハウも多くあり、私たちと一緒になれば入居者数を増やせる可能性がある。1年後には黒字化できるのではないか。ともに共存共栄を図っていきましょう」と話していた。
春が過ぎ新緑の季節になっていた。
ハッピーリタイアするために、第1フェーズとして事業を建て直すための業務提携を結んだ。売手社長にとって何が一番幸せなのかを考えてお手伝いをする、それがM&Aアドバイザーの仕事だ。

2024.2.14掲載

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