ビジネスマッチングコラム vol.32

飛耳長目
夕日に照らされた波しぶきをあげる海

経営者保証の現状と課題

Twitterシェア Facebookシェア LINEシェア Mailシェア

中小企業の社長は実質、無限責任⁉

株式会社の原則に、「株主有限責任の原則」があります。株主は会社に対して出資した金額以上の責任は負わないというものです。会社に借金がある状態で倒産した場合、出資した金額が戻ってこないことはあります。しかし、出資した以上の金額を負担することはありません。つまり、会社は債権者に対してお金を返さなければなりませんが、株主は出資した金額の範囲内でのみ責任をとり、それ以上の金額を支払う必要はありません。有限とは「限度がある」ということなので、出資した金額を限度に、それ以上責任を負うことはないのです。社長が株主であったとしてもこの原則は変わりません。社長が自分の資金で会社を設立し株主となり、もし倒産してしまって出資金以上の債務が残っていたとしても社長は出資金以上を支払う責任はありません。
ところが多くの中小企業では、社長が連帯保証人になっていることが多いため、倒産して債務が残ってしまった場合、社長の個人財産からも会社の債務を返済しなければなりません。
つまり、中小企業の社長は、実質的には「無限責任」になっているのです。

経営者保証が事業承継に与える影響

経営者保証とは上記のように、中小企業が金融機関から融資を受ける際、経営者個人が会社の連帯保証人となることを言います。
経営者保証は事業承継を妨げる要因の一つです。たとえば、社長の家族や従業員を後継者に考えた場合、連帯保証人になりたくない、そもそも連帯保証人になれるだけの資産を持ち合わせていないなどの問題があります。
ところが、M&Aで事業を承継する場合は、基本的に経営者保証の引き継ぎができるのです。
特に株式譲渡はすべての経営権を移転させる手法(スキーム)なので、資産と負債を引き継ぐことになります。

○株式譲渡の場合
株式譲渡とは、すべての株式を買手に譲渡します。つまり、会社のすべての資産・負債を買手に譲渡することです。経営者保証の借入金も買手に譲渡しますが、経営者保証に関しては自動的に引き継ぐことはできません。経営者保証の連帯保証を変更するためには、売手と買手が協力して手続きを行う必要があります。もちろん金融機関からの合意も必要です。
連帯保証人は売手企業の代表取締役の登記を抹消後のみ変更可能なため、売手社長が少しでも早く不安を取り除くために、売手と買手が締結する株式譲渡契約書に、株式譲渡後速やかに買手が経営者保証の変更手続きを行う旨を義務として明記しておきます。

○事業譲渡の場合
事業譲渡とは、会社の一部あるいは全部の事業を譲渡することをいいます。譲渡する事業に関連する資産・負債のみを譲渡するため、その事業に関連のない負債は譲渡しません。このため基本的には経営者保証を引き継ぐことはありません。その場合、事業譲渡を行うことにより得た代金で借入金を返済し、金融機関の同意を得て経営者保証を解除することが多いです。

経営者保証に関するガイドラインとは※1

経営者保証には、事業承継以外にも多くの弊害があります。経営者による思い切った事業展開や早期の事業再生などの阻害要因となります。これらの課題解決のため、日本商工会議所と全国銀行協会が共同で「経営者保証に関するガイドライン」を策定し、2014年2月から適用されています。このガイドラインでは、経営者保証に頼らない柔軟な融資を促進しています。

○ガイドラインの適用条件
以下のすべての用件を満たす保証契約に関して適用されます。
・保証契約の主債務者が中小企業であること
・保証人が個人であり、主債務者である中小企業の経営者であること
・主債務者及び保証人の双方が弁済について誠実であり、対象債権者の請求に応じ財産状況などについて適時適切に開示していること
・主債務者および保証人が反社会的勢力ではないこと

○債務者の適用条件
経営者保証のない融資や経営者保証に代わる融資を受けるには、以下の経営状況であることを満たしている必要があります。
・法人と経営者との明確な区分・分離がされている
たとえば、適切な役員報酬や配当になっているか、会社の不動産に経営者個人の不動産が含まれていないかなどです。
・財務基盤の強化
財務状況および業績を良くし、返済能力を向上し信用力を強化することが求められます。財務基盤が強化すれば、他の資金調達も可能になります。
たとえば、業績が順調でキャッシュフローも内部留保も十分な場合や、業績は不安定ではあるが内部留保に余裕があり借入金全額返済が可能と判断できる場合などです。
・経営の透明性の確保
主債務者は債権者に対して、適時適切な財務状況などの情報開示や説明を行い、経営の透明性の確保が求められます。

ガイドライン運用後の現状

ガイドラインが普及してきましたが、経営者保証なしでの貸付は2021年時点で約3割です。※2その現状を改善するために、2022年11月には金融庁より監督指針の改正案として「2023年4月より金融機関が個人保証を求める場合は、具体的な理由を経営者に対して説明するよう義務づける」ことが発表されました。
ガイドラインには法的な拘束力はなく、「中小企業、経営者、金融機関共通の自主的なルール」と位置づけられていますが、2023年からは経営者保証を求める場合には説明義務を課します。「どの部分が十分ではないために保証契約が必要となるのか」「どのような改善を図れば保証契約の変更・解除の可能性が高まるか」について具体的な説明が求められます。※3
今後はより積極的に経営者保証が制限されるようになります。経営者保証は、経営者の事業承継や事業展開、プライベートの生活などにも大きく関わります。国がメスを入れることにより、経営者保証に依存しない金融機関からの融資制度になれば、経営者が柔軟な事業を行うことができ、また、事業承継においては経営者だけではなく後継者の不安が軽減され、M&Aにおいては買手の手間や負担が省けるなどのメリットがあります。
事業承継問題に対して一つの光明になるのではないでしょうか。


経営者保証と事業承継についてご質問などがございましたら、お気軽に<support@gift-map.jp>宛に相談してください。


※1:一般社団法人 全国銀行協会「経営者保証に関するガイドライン」
https://www.zenginkyo.or.jp/adr/sme/guideline/

※2:中小企業庁「経営者保証に依存しない新規融資の割合」
https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/keieihosyou/#guideline

※3: 有償企業庁「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針(新旧対照表)」
https://www.fsa.go.jp/news/r4/ginkou/20221101/01.pdf

2023.2.22掲載

Twitterシェア Facebookシェア LINEシェア Mailシェア

ページトップへ