ビジネスマッチングコラム vol.26

飛耳長目
若い人やご年配の人、男性女性、いろいろな人が映る画像

人材は資本であり企業価値を高める

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ヒト、モノ、カネの経営資源

ヒト、モノ、カネの経営資源と世間では言われています。順番は、”ヒト”から始まります。この点からもヒトに対する優先順位が高いことがわかります。ほかにも、企業はヒトなり、ヒトは財産、ヒトは宝、人財、とも言われます。モノを動かして、カネを生み出すのもヒトです。これほど企業にとってヒトが最も大事と言われているにもかかわらず、なぜ今までヒトは資本とみなされなかったのでしょうか。

ヒトはコストなのか?それとも資本なのか?

ヒトが経営資源と言われながらも、ヒトの価値は現在まで資本としてより、コストとして捉えられてきました。と言いますのも、財務諸表において、モノ、カネは資産として計上されます。ところが、ヒトは経費として計上されます。ヒトの採用から入社までにかかる費用、ヒトを育てるための研修費、ヒトが働くための労務費、福利厚生費…すべてコストとして見られてきました。しかし、本当に単なるコストなのでしょうか。ヒトが成長し、利益をもたらす存在になるために行う研修やOJTをしながらの労務費などは、一定期間を経て企業にとって人材価値を創造し利益を稼いでもらうためのお金です。つまり、企業にとっての先行投資なのです。したがって、一人前になり利益を稼ぐようになるとそこからは研修コストも圧縮できます。その後かかる労務費や福利厚生費などは、それ以上の収益を上げる源泉になるのです。
ですから経営に必要な資本としてヒトに投資することで、企業は付加価値を生むことができます。むしろM&Aの場合は、企業価値評価においても重要なファクトになると考えます。
ヒトが企業経営にとって必要なことを“人的資本”といいます。ヒトが持つスキル(技術、能力)、知識、経験、想像力、創造性、ヒトが生み出すことができる力を資本として捉えた言葉です。
企業が利益を上げる過程では、ヒトが商品やサービスを考えてつくり出し、ヒトがその商品やサービスを販売し代金を稼ぐことで、そのお金が企業の収益となります。いわば、企業のすべてはヒトにはじまり、ヒトにつながり、ヒトによって終わる。それが企業経営の本質であり、持続可能な事業を創っています。

昨今、人的資本が重要視されている背景

かつてモノづくり大国日本といわれ製造業が中心とされていた時代は、大量生産のための設備投資に企業活動の重点がおかれていたため、工場や設備といった有形資産が企業価値の大きな要素とされていました。ところが時代が変わり1990年代後半からは、インターネットの普及によりIT・情報の分野がすさまじい勢いで伸びてきました。そのため価値の評価対象が、会社独自の技術やノウハウ、ブランド、ヒトが生み出すアイデアや知識などの無形資産に置き変わってきているのです。

世界各国と日本の動き

2018年12月に国際標準化機構(ISO)は、企業が人的資本への投資について見える化するため情報開示のガイドラインISO30414を発表しました。
EUでは2014年に従業員500名以上の企業を対象に人的資本の情報開示を義務化、米国では2020年に上場企業に対する人的資本の情報開示を義務化しました。企業は従業員数、人的資本に関する説明(人材の採用、育成など)の情報開示が必要となりました。つまり、国際的に人的資本が重要視されているのです。

その世界的な人的資本開示の潮流は日本にも流入してきました。遅れをとっていたわが国ですが、政府から今夏までに、企業の「人的資本」に関する情報開示の充実に向けた環境整備について結論を出していくと発表されました。
岸田総理は施政方針演説で、『付加価値の源泉は、創意工夫や、新しいアイデアを生み出す「人的資本」、「人」』と発表しています。さらに『人的投資が、企業の持続的な価値創造の基盤であるという点について、株主と共通の理解を作っていくため、今年中に非財務情報の開示ルールを策定します。』(※1)との方針です。
人的資本の情報開示により、いずれは、その企業がどのようにヒトを重要視しているか、人的資本がどのように経営戦略にかかわっているのかが見える化されると考えられます。
たとえば食品大手のカゴメでは、自身のキャリア形成のために選択型ビジネススキル研修の受講や適材適所の人材配置を行うため人事育成担当によるキャリア面談などの実施、さらに視野を広げ人材価値を高めるために社外での副業制度も導入しています。また同社はそのような非財務情報も積極的に開示しています。(※2)人的資本=ヒトが新しいアイデアを生み出し、イノベーションを生み出します。人的投資は⾧期で見ると企業の持続的な価値創造に貢献します。またM&Aで企業買収をする際は、人的価値を資産とみなしバリュエーションの1つとして捉えることが進んでいくのではないでしょうか。

人的資本を高めるためには

日本の企業は、経営戦略と人事戦略を分けて考えることが多いため、経営戦略に人的資本をうまく活用できていませんでした。人的資本を高めることは企業価値を高めることに直結します。人的資本=ヒト=従業員は大事な資本です。
ヒト=従業員が資本であるという原点に立ち返ってください。そして、従業員の価値を引き出し成長を促し、また従業員の意見を聞いてみてください。企業の価値を高めるためには、ヒトの能力とモチベーションを高めそれによって賃金も上げていくことが必要です。たとえば会社を売却するようなときに人的価値を高めておくことで売却価格を高めることになるのではないでしょうか。

最後に

ヒト、モノ、カネといわれる経営資源。あまり順番を気にしていなかったかもしれませんが、おそらく皆さまも無意識のうちに一番大切なのは“ヒト”と認識しているので、何の違和感もなく言葉にしているのでしょう。
ヒトの活躍によって、企業は力強く成長を遂げることができます。企業にとって、ヒト=従業員はなくてはならない存在です。経営者も、もちろんヒトです。
これからも “ヒト”が活躍して企業が成長し価値を見出し、持続可能な未来をつくっていくことでしょう。そんな未来が必ず続くことを願います。

※1…第二百八回国会における岸田内閣総理大臣施政方針演説
https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2022/0117shiseihoshin.html
※2…KAGOME統合報告書2021
https://www.kagome.co.jp/company/ir/data/report/

2022.4.13掲載

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