ビジネスマッチングコラム vol.23

飛耳長目
謎めいた暗さの中に様々な種類の懐中時計が沢山あります。時計の時間や形もばらばら。形が歪んだ物や不思議の国に連れていかれそうなうさぎが付いている時計もあります。時計は時間をかけ築き上げたブランド、毎日一生懸命に働く人、沢山の研究を重ね取得した特許等を表しています。財務諸表だけでは知ることのできない事を暗さで表し、見えない資産を時計に例えました。

見えない資産価値

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財務諸表に記載される資産とは

財務諸表は、主にステークホルダー(利害関係者)に対して企業の状態を知らせるために作成され、企業の財政状態や経営成績を見ることができます。
財務諸表のうち貸借対照表は財政状態を表し、左側には”資産”が、右側上段には資金の調達源泉である”負債”、下段には返す必要のない自己資本の”純資産”が表示されます。資産は会社が保有している財産のことです。
たとえば資産の中の流動資産には現金・預金や売掛金、受取手形、棚卸資産、固定資産の有形固定資産には土地、機械、車両運搬具、建物、無形固定資産にはソフトウェアやのれん、投資には投資有価証券…などが記載されます。この資産群は新たなおカネを稼ぐための装置ととらえることができます。資産を効率的に使って多くの現金を稼ぐことでキャッシュがたまり、それが純資産を増やすことになります。
貸借対照表に記載されている資産とは、金額で表すことができ、企業が支配している経済的資源やその同等物、その企業に価値をもたらすものをいいます。
このように見ていくと、貸借対照表の資産を見ればその会社がもっている財産をすべて見ることができるように思いますが、実際はそうではありません。

財務諸表に載らない資産

企業には貸借対照表の資産には載っていない財産がたくさんあります。それはリソースといわれる経営資源を考えれば理解できるでしょう。リソースとは、ヒト、モノ、カネ、情報、時間などです。会社を経営するための資源は資産の源と言い換えることができます。その中でモノとカネは貸借対照表の資産に記載されますが、記載されない資源があります。
たとえば、ヒトです。「企業は人なり」という言葉を聞きますが、どんなに優秀な人材がいたとしても、何百人と社員が入社しても、貸借対照表上に記載されることはありません。
従業員の技能、スキルもチーム力も、成長して収益につながる未来も、資産として記載されません。
ヒトは資産ではなく、人件費のコストとしてのみ損益計算書に計上されるのです。もし資産として記載するならどのように金額を算出するのでしょう。それは採用や育成、研修にかかる金額、その人が稼ぎ出す利益額などでしょうか。ヒトの価値の計り方は、計る人によって違います。人の価値は簡単には計り知れないということです。

他にも、特許権やブランドも資産には記載されません。どんなにその特許に価値があったとしても資産には記載されず、研究開発費のコストとして計上されます。
しかしM&Aで取得した特許権は、資産に記載されます。なぜその会社が独自で取得した特許は資産に記載されず、他社から取得した特許権は資産に記載されるのかを知らないと、その会社が持っている価値を見逃してしまいます。
また、ブランドは成長させるまでにものすごい時間をかけて築き上げます。そのかけてきた時間も見方によっては価値とされますが、資産には記載されません。このような目に見えない無形資産をうまく活用している企業は時価総額世界1位のApple(2021年12月末時点)でしょう。多くのデザイナー達が作りこんだハードウェアは、クリエイティブなデザイン性が熱烈なファンを魅了して、ソフトウェアに無形のサービスを展開させ売上を上げています。まさにブランド力と戦略を最大に活用し付加価値を提供しています。

世界と日本の人的資本の見える化の動き

人的資本の情報開示のためのガイドラインである ISO30414 が、2018 年 12 月に国際標準化機構(ISO)から発表されました。これは、企業が人的資本への投資や改善にどのように取り組んでいるのかを情報開示するためのルールを定めたものです。アメリカではすでに上場企業にこれらの開示が義務化されています。他国でも人的資本についての開示の義務化や開示を求め、世界では企業のヒトの価値の情報を開示していこうという動きがあります。
後れをとっている日本でしたが、企業の「人的資本」に関する情報開示の充実に向けた環境整備について今夏までに結論を出していくと発表しました。岸田総理は新しい資本主義を掲げ、モノから人への方針の中、施策方針演説では、『付加価値の源泉は、「人的資本」、「人」』と発表しています。つまり人への投資を経済界に促しています。このような流れの中で今後、人的資本は企業価値に直接的にかかわってくるでしょう。

真の企業価値

財務諸表は誰もが公平に見ることのできる諸表です。金額で表されているので、誰が見ても同じ見方ができるようにはなっています。しかし、財務諸表には何が記載され、何が記載されていないかを理解していなければ、その会社の本当の企業価値は見えてきません。目に見えるわかりやすいものだけを価値として評価するのではなく、財務諸表には載らないが確実に存在しているものも見なければ、その会社の本当の価値を知ることはできません。

このように、財務諸表だけでは会社の本当の価値を知ることができません。もし財務諸表だけを見てM&Aをご検討されている場合は、財務諸表に載らない価値も含め、じっくり検討してみてください。きっと今よりも、その会社のこと、その会社の真の企業価値が見えてくるはずです。

M&Aをご検討されている方は、<support@gift-map.jp>宛にご連絡ください。

2022.2.16掲載

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