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ビジネスマッチングコラム vol.64
個人事業主の皆さんとお話していると、よく「M&A(企業の合併・買収)は規模の大きな会社が行うもの」というお声が聞かれます。
ところが、昨今では後継者不在による廃業の回避、あるいは事業のさらなる成長を目的として、中小企業や小規模事業者はもちろんのこと個人事業主によるM&Aも活発に行われています。
規模や業種を問わず、長年培ってきた事業を第三者へ譲渡することは、十分に現実的かつ有効な選択肢です。それにより、例えば従業員の雇用継続や、廃業による取引先への迷惑を回避するといったことも可能です。
廃業するにもコストがかかります。そのことを踏まえれば、売却してその対価を得られるならば、その方が有利な判断ではないでしょうか。
本コラムでは、個人事業主が事業譲渡を検討する際の基本的なプロセスと、実務上の留意点について解説します。
個人事業主の事業が持つ「資産価値」
法人のM&Aが会社の株式を譲り渡して会社ごと引き継いでもらうのに対し、個人事業主の場合は、不動産や設備、顧客基盤、従業員、事業ノウハウなどを個別に引き継ぐ「事業譲渡」という手法が用いられます。事業譲渡は固定資産や従業員だけを譲り渡して、現金や負債などは譲渡しないことが特徴です。
なぜ買手が個人事業主の事業を評価するのかというと、「事業の立ち上げにかかる時間を大幅に短縮できる点」にあります。新規に事業を始める場合、場所の準備から内装工事、人材採用、そして顧客を獲得して売上を安定させるまでに、多大な時間とコストを要します。あるいは、製造業であれば工場に生産機械も必要でしょう。
ところがすでに地域で認知され、安定した顧客とオペレーションを持つ事業をそのまま引き継ぐことができれば、買手にとって非常に合理的な投資となります。経営者自身が想像している以上に、日々の営業努力で培われた「資産価値」には高い評価がされるのです。
事業譲渡を円滑に進めるための5つのステップ
事業譲渡は、一般的に以下のプロセスで進行します。
① 事業価値の把握と財務の整理
まずは自社の強み(立地、顧客層、技術力など)を客観的に整理します。同時に、事業用の資金と経営者個人の生活費などが混同している場合は明確に切り分け、「事業単体でどの程度の収益力があるのか」を正確に分析し把握します。そのうえで「事業の評価が実際いくらなのか」「それを踏まえていくらで売却したいのか」までを決定します。
② 譲渡先(買手)の選定
M&Aの専門機関などを通じて、条件や経営方針が合致する買手候補を探索します。同業や同地域などから探索するのが主流です。
③ トップ面談と基本合意
買手候補の経営者と直接面談を行います。条件面の確認だけでなく、事業に対するビジョンや価値観のすり合わせを行う重要なプロセスです。こちらも専門機関が立会い調整を行います。
④ 買収監査(デューデリジェンス)
買手側が、事業の収益状況や固定資産などの評価、法務面のリスクについて詳細な調査を実施します。売手側には、誠実かつ透明性のある情報開示が求められます。
⑤ 最終契約の締結と引き継ぎ
譲渡条件が確定した後、最終の事業譲渡契約を締結し、事業の引き継ぎを行います。従業員や取引先、顧客へ丁寧に説明をすることが、事業承継を成功させるための重要な要素です。
個人事業主特有の「契約承継」のハードル
個人事業主のM&Aにおいて、実務上最も留意すべき点は「契約関係の引き継ぎ」です。
法人の株式譲渡では法人そのものが承継されますので法人契約はそのまま引き継がれます。ところが、事業譲渡では不動産の賃貸借契約、リース契約、取引先との基本契約などすべての契約者が売手経営者である個人であるため、買手に自動的に引き継がれることはありません。したがってこれらを買手に引き継ぐには、契約を結んでいる取引先に対して個別に事業承継の経緯を説明し、名義変更や再契約の承諾を得る必要があります。あるいは、飲食業や宿泊業などにおいては経営に必要な許認可も取り直す必要があります。
また、従業員との雇用契約も同様です。従業員一人ひとりに事業譲渡の旨を丁寧に説明し、買手企業との間で新たに雇用契約を締結してもらうための合意形成が不可欠となります。
専門家を活用し、リスクを適切に管理する
前述のような権利関係の煩雑な手続きに加え、M&Aの実務では契約書の作成や、譲渡益に対する税務処理など、高度な専門知識が要求されます。
手続きを自己流で進めたり、インターネット上のひな型契約書を流用したりすることは、想定外のリスクや税務上のトラブルなどを招く恐れがあります。
したがって、契約書作成やリーガルチェックは弁護士に、事業譲渡にともなう税金の計算や申告は税理士に、といったように、必ず各領域の有資格者である専門家の知見を仰ぐことが安全なM&Aの絶対条件です。M&Aアドバイザーは、こうした士業の専門家と連携しながら、個人事業主が安全に事業を譲渡できるよう全体を統括し、サポートを行います。
おわりに
「個人事業主だから事業売却はできない」と諦める必要はありません。事業のバトンを第三者へ渡すことは、顧客や従業員を守るだけでなく、経営者自身の新たなスタート(ハッピーリタイアや新規事業の立ち上げ)を後押しする前向きな決断です。まさにEXIT(出口戦略)なのです。
事業承継の可能性を少しでも感じられた際は、まずはM&Aの専門家に相談し、自社の客観的な価値を知ることから始めてみてはいかがでしょうか。
経営のバトンをつなぐ最適な出口戦略ついてご質問などがございましたら、お気軽に<support@gift-map.jp>宛にご相談ください。
2026.9.16掲載

